石田弘樹「『スクラップ・アンド・ビルド』から『スクラップ・フォー・ビルド』へ -建設過程と解体過程における『祝祭性』に着目した資材循環プロセスの提案-」
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1. 設計趣旨
我が国における、経済的合理性に基づくスクラップ・アンド・ビルドによる直線的な都市開発においては、解体過程における「祝祭性」の欠如によって、解体行為がネガティブなものとして扱われている。持続可能社会の形成が叫ばれる今後の都市開発においては「祝祭性」によって解体の価値向上を図り、建設と解体が一体となった循環型の開発方法が求められる。そこで、本研究での開発方法を「スクラップ・フォー・ビルド」として位置づけ、「解体行為の価値向上を図り、建設と解体を等価に扱うことで建築資材を循環させる開発方法」と定義する(図1)。これにより、持続可能社会の形成に向けた循環型の開発方法の一つの指針を示すことを目的とする。
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図1:「スクラップ・フォー・ビルド」の概念図
直線型遠近法的な「スクラップ・アンド・ビルド」を更新し、建設と解体が繰り返される循環型永劫回帰的な開発の方法を目指す。
2. 建設過程における「祝祭性」
建設過程においては〈建設前/建設中/建設後〉のそれぞれの段階で地鎮祭、上棟式、竣工式といった祭事が行われることで、建設過程における「祝祭性」を担保している。一方で、これらの祭事の原型となった式年遷宮では、建設過程以外においても祭事を行うことで、建設と解体の双方が祝祭性を持った循環型の建築を実現させている。
3. 解体過程における「祝祭性」
解体過程を、建設過程同様〈解体前/解体中/解体後〉の3つの段階に分類し、それぞれの「祝祭性」について考察した。〈解体前〉の「祝祭性」として"Chim↑Pom"が行った「『また明日も観てくれるかな?』~So see you again tomorrow, too? ~」や、戸田建設本社ビルで行われた「TOKYO 2021」が挙げられる。これらの事例では、解体前の既存建築という自由度の高い空間を利用し、アートイベントやシンポジウムが開催されている。〈解体中〉の「祝祭性」として、宮本隆司による廃墟写真『建築の黙示禄』や、ゴードン・マッター=クラークによる「Splitting」などが挙げられる。これらの事例では、解体中の空間や解体行為そのものを祝祭的に扱っている。〈解体後〉の「祝祭性」として、「原爆ドーム」や「ベルリンの壁」などが挙げられる。これらは負の遺産ではあるが、解体後の建築が慰霊碑や展示空間として転用されることで、事後的に「祝祭的」なものとなっている。
以上の考察を踏まえて本研究では、〈解体前〉における祝祭性を「展示祭」、〈解体中〉における祝祭性を「解体式」、〈解体後〉における祝祭性を「転用式」と定義する(図2)。
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図2:建設過程と解体過程の「祝祭性」のまとめ
通常、建設過程のみで行われていた祭事を、解体過程においても実装することで解体の価値向上を図る。
4. 建築資材の循環に関する考察
403architecturedajibaによる「渥美の床」は、天井を組んでいる下地材を同じ室内の床に敷き詰める資材循環を行っている。このような事例を「室内循環」と定義する。JUNPEI NOUSAKU ARCHITECTSによる「富士見台トンネル」では、物的資源や人的資源を一棟内で循環させることで、廃棄資材の軽減や資材を媒体としたコミュニケーションを促す循環を生み出している。このような事例を「一棟循環」と定義する。Hiroshi Nakamura & NAPによる「上勝ゼロ・ウェイストセンター」は、地域資源を活用し、廃材を活かしたデザインを行っている。このような事例を「地域内循環」と定義する。門脇耕三がキュレーターを務めた「ヴェネチア・ビエンナーレ日本館」は、日本とイタリアという地域の範囲を超えて資材を循環させることで、資材自体に新たな意味を付与させている。このような事例を「地域外循環」と定義する(図3)。 以上のように、資材の循環範囲の大きさごとの効用について把握することで、効果的な資材の循環サイクルを生み出せると考える。
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図3:資材循環の範囲の分類
資材の循環範囲の大きさによる分類。本提案では「室内循環」「一棟循環」「地域外循環」までを対象とする。
5. 建築資材の加工方法に関する考察
建築の主な資材となる〈木系資材〉〈鉄系資材〉〈コンクリート系資材〉に分類し、資材の加工方法について考察した。縦軸は資材の形状、横軸は加工の段階を示しており、資材の段階的な再利用の方法を示している(図4)。設計の際、以下の図のアルファベットと数字を利用して資材の形状と段階を示す記号を表記する。例えば、〈鉄系資材〉の型鋼は「S/1a」のように表記される(図5)。
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図4:〈木系資材〉〈鉄系資材〉〈コンクリート系資材〉の加工方法
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図5:資材の流れを示す図面記号の作成
〈鉄系資材〉の型鋼は「S/1a」のように表記される。
6. 資材加工工場の創出
まず対象地域における解体の際に生じた建築資材を回収し、再利用可能な状態に加工するための中枢機能を果たす資材加工工場を創出する。計画敷地は東京都江戸川区江戸川に位置する「妙見島」とする。
5.で作成した図面記号を図中に表記することで、資材の流れを把握することが可能となる(図6)。幾何学的な形態の場群をブリッジが貫入し、統合することで全体性を担保する(図7)。資材循環の象徴となる工場が水辺に映ることで、江戸川に新たな風景が生み出される。工場間の空地に屋外加工エリアを設けることで、資材販売所で購入した資材をその場で加工できるようになる。
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図6:配置計画及び動線計画図
図面記号によって資材の流れを示すことが可能となる。
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図7:外観模型写真
歩行者動線となるブリッジ(金色部分)が工場群に貫入することで全体性を担保する。
7. 資材循環プロセスの構築
続いて、東京都江戸川区葛西地域を資材循環適応範囲とした資材循環プロセスを構築する。資材加工工場を創出したことによって、資材循環適応範囲において資材の循環が生まれる。都市内では祝祭的な解体が行われることで、資材を媒介とした新たなコミュニケーションが発生する(図8)。
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図8:祝祭的な解体のイメージ
左から「展示祭」「解体式」「転用式」の様子
8. 結
本論では建設過程と解体過程の「祝祭性」に着目した考察を行うことで、ネガティブなものとして扱われる解体の価値向上を図り、建設と解体が一体となった開発手法を提示した。また、資材加工工場の創出と資材循環プロセスを構築することによって、持続可能社会の形成に有効な循環型の開発の在り方が提示できた(図9)。
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図9:妙見島鳥瞰パース
妙見島を中心に都市へ「スクラップ・フォー・ビルド」が拡がる様子。
【Gallery】
~全体模型~
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https://gyazo.com/1efc3176b5f3f587168d6d86d02922fe
https://gyazo.com/86b7a1dcb4d0e304f80258302bb0bb9a
https://gyazo.com/a6e84a90b18e84d6c00d1d49ae64eb44
~部分模型~
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https://gyazo.com/890244410a27e6f70c38e9a640ae7bf7
https://gyazo.com/e22049458a8a0119dc5c03131df7c5af
https://gyazo.com/7011a43e16577ec91434129a7a70d208
既存ストックの賦活化が求められているのは言うまでもないだろう。本提案では、スクラップ・アンド・ビルド型社会を脱却した次なる世界が、スクラップ・フォー・ビルドとして位置づけられている。ここで重要なのは、ストックを賦活利用するには、廃材という資材が、建築を構成する重要なエレメントとして循環しなければならないという視点である。このような世界を実現するために彼が着目したのが「祝祭性」である。地鎮祭や上棟式といった建設過程において行われる祭事を、解体時にも実装させることで、地域社会全体に対して廃材循環の機運を高めようとするものである。そして、この循環を生み出す核となる施設として、資材加工工場が提案されている。この建築は、廃材の材質や形状によって整理された動線計画という実用的な側面はもとより、力強く立ち現れた形態が特徴的である。巧みに描かれたドローイングから、彼の建築に対する深い思慮が伝わってくるだろう(古澤大輔)。